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水素自動車の仕組み・価格の目安・燃費・水素自動車

更新日:2023年10月20日

水素自動車について、その成り立ちや価格、気になる燃費性能などを解説します。地球温暖化の原因物質となるCO₂を出さないクリーンな車として開発され、ついに量産市販車として登場した水素自動車の魅力や、将来に向けての問題点など、水素自動車の耳寄りな情報を紹介します。

水素自動車の仕組み・価格の目安・燃費・水素自動車

水素自動車の仕組みについて

地球温暖化が原因とされる異常気象によって、大規模な自然災害が発生するなど、世界各地で大きな被害をもたらしている現在、温暖化の原因物質とされるCO₂などの「温室効果ガス」の排出量削減が、先進国を中心に早急の課題となっています。

世界の自動車メーカー各社は、1997年の「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」採択以降、車の排気ガスによるCO₂排出量を低減させるため、燃料消費量の減少や、排出ガスをクリーンにした車の開発に力を注ぎ、エンジンの排気量縮小や、ハイブリッド車または電気自動車の導入など環境問題に適応した、販売車両ラインナップの転換を進めています。

そういった地球環境にやさしい究極といえる車が、水素を使用してエネルギーを作り走行する車です。そのような、今、話題の水素自動車について、その仕組みや特徴、気になる価格や水素自動車などを解説していきます。

水素自動車の種類について

水素を使用して走行エネルギーを作る「水素自動車」には、現在二種類あります。

それは従来のガソリン、軽油といった化石燃料の代わりに、水素を燃料として走行する「ハイドロジェン車(hydrogen fueled vehicle)」と、水素(H)と酸素(O₂)を化学反応させることで、電力を作り出して走行する「燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)」の二つです。

ハイドロジェン車はエンジン内で水素を燃焼させて、走行エネルギーとするため、地球温暖化の原因物質とされるCO₂を一切排出せず、また燃料電池車は燃料電池によって、水素と酸素とを反応させて作り出した電力を使用して、モーターで走行するため、CO₂はおろか排出されるのは水のみという、どちらも地球環境にやさしいと注目の水素自動車です。

ハイドロジェン車の仕組み

ハイドロジェン車は、従来のガソリン車やディーゼルエンジン車と同じで、エンジン内で水素を燃焼させた際に生じる熱エネルギーによって、走行する車です。

このように水素を燃料とした人工動力を作るという発想は、人類初の人工動力である「蒸気機関」が登場した黎明期(れいめいき)から存在していて、1807年に製造された世界初の人工動力で走行する自動車には、何と水素が燃料として使われていました。

現在までに水素を燃料として走行する、ハイドロジェン車を実用化した自動車メーカーは、ドイツのBMWと日本のマツダで、両社はハイドロジェン車を量産車としてラインナップし、実際に市場投入しました。

BMWのハイドロジェン車

BMWは1999年に15台の水素自動車(ハイドロジェン車)を生産し、ドイツ国内で公道走行試験を開始しました。2001年にはこの水素自動車を世界各地に持ち込んで、各地の報道メディアに公開し、同社による水素自動車の実用化が近いことをアピールしました。

そして2006年には実際の量産型水素自動車として、BMWハイドロジェン7(Hydrogen7)を発表し、一般のユーザーを対象に100台を量産して、同年末より限られた顧客に向けてリース契約にて提供しています。

この水素自動車、ハイドロジェン7はその名のとおり、BMWのフラッグシップ・サルーン7シリーズのモデル、760Liに搭載される総排気量5972ccの、V型12気筒ガソリンエンジンをベースに水素自動車として開発した物です。

V12ガソリンエンジンをベースにハイドロジェン化

このBMW製水素自動車の仕組みは、元のガソリンエンジンに水素供給パイプや噴射弁などの、水素燃料供給システムを組み込んだ物です。

またガソリンより燃焼速度の速い水素では、レシプロエンジンの場合、ピストンの圧縮よる混合気の温度上昇から早期着火し、バックファイアなどの異常燃焼を起こしやすいため、通常よりもエンジンの圧縮比を下げるなど改良を行っています。

液体水素を燃料に使用

注目すべきは、水素燃料として液体水素を使用していることです。この水素自動車では液化した水素を、トランクルームに設けられた専用のステンレス製タンクに貯蔵しています。

水素は液化する温度が-253℃という極低温のため、このタンクは内外に二重の容器があり、その間が真空という魔法瓶みたいな構造をしていて、さらにその真空間に多層の輻射熱遮断フォイルを充填することで、水素の液化状態を長時間保持できるようになっています。

水素とガソリンの両方で走行できるバイフューエル車

気になるBMW製水素自動車、ハイドロジェン7の性能は、最高出力260馬力、静止から時速100㎞/hまで9.5秒、最高速度230㎞/hという通常の7シリーズと遜色ない走行性能を発揮します。

また水素燃料が無くなった場合はガソリンでも走行できるよう、8㎏の液体水素タンクの他に74ℓのガソリンタンクを備えたバイフューエル方式を採用し、スイッチ一つで水素からガソリンへと燃料供給を切換えることができます。

水素とガソリンの両方を使用した、この水素自動車の航続距離は約650㎞といいますから、電気自動車に比べてずっと長い距離を走ることができます。

ハイドロジェンロータリーエンジンのマツダRX-8

マツダは、ロータリーエンジン搭載の市販車RX-8をベースにした水素自動車、「RX-8ハイドロジェンRE」を2003年の東京モーターショーにて発表しました。このマツダの水素自動車は、翌2004年に公道での試験走行を開始し、また2009年には広島県と広島市へそれぞれ一台ずつリース契約にて提供し、現在も官公庁や企業向けにリース販売を行っています。

マツダの水素自動車はBMWとは異なり、燃料に圧縮水素を使用しています。RX-8ハイドロジェンのトランクルームには、気体水素を35Mpa(メガパスカル)の圧力で貯蔵する水素タンクが設置されています。これは水素燃料を補給する水素ステーションでも使用され、水素の貯蔵法においては現状では最適とされています。

ロータリーエンジンと水素は相性が良い

ロータリーエンジンはレシプロエンジンと違って、エンジンの各行程によって内燃室の場所が変わるため、バックファイヤーなどの異常燃焼が起きにくいとされ、水素エンジンに適しているといいます。

さらにバルブ機構などを持たないロータリーエンジンは、水素エンジンの出力向上に有利な直噴化も容易なため、RX-8ハイドロジェンでは電子制御水素インジェクターを設置し、吸気室内に水素を直接噴射する方式を採用しています。

またBMWと同じく、このマツダの水素自動車も、ガソリンタンクを装備したバイフューエル方式となっており、ガソリンと水素の両方を使用した航続距離は約630㎞となっています。

燃料電池車(FCV:フューエルセルヴィークル)の仕組み

燃料電池車はハイドロジェンとは異なり、水素を直接燃やすのではなく、水素を使用して電気を作る装置(燃料電池)によってモーターを駆動し、走行する水素自動車です。

燃料電池車は、同じ水素自動車でもハイドロジェン車みたいに、従来の内燃機関(ガソリンエンジン)を改良するのではなく、あくまで電気モーターを動力源とする水素自動車ですので、走行特性など車の成り立ちとしては、そのまま電気自動車となっています。

燃料電池とは水に電気を加えて分解すると、水素と酸素に分かれるという小学校で習う理科の実験を応用して、水素と酸素を化学反応させて電力を生み出すという装置です。

発電効率が優秀でクリーンな燃料電池車

燃料電池車に使用される燃料電池は、非常に発電効率が高く、何と30~40%という一般的な火力発電所に迫る高効率となっており、また内燃機関と違って排出ガスを一切発生せず、発電後は水のみを排出するという、大変環境にやさしく、次世代のエネルギー源として大いに注目されています。

燃料となる水素は、マツダのハイドロジェンロータリーと同じ圧縮水素を使用しています。トヨタの燃料電池車ではこの圧縮水素を、炭素繊維や樹脂などを使用した水素ボンベに70Mpaの圧力で貯蔵しています。水素の充填時間は約3分で、航続距離は650㎞となっています。

水素自動車の価格の目安は

水素自動車の価格について説明します。

ハイドロジェン車の価格は

まずハイドロジェン車ですが、注目のBMW製高級サルーン型水素自動車、「ハイドロジェン7」のリース価格は正式に公開されてはいませんが、予想では一か月あたり100~120万円との事です。

またマツダのロータリーエンジンを改良した水素自動車、「RX-8ハイドロジェンRE」では、一か月あたり42万円とかなり価格が抑えられています。

燃料電池車の価格は

次に燃料電池車の場合は、ホンダが2016年に販売を開始した「クラリティ・フューエルセル」では、まずはリースをメインに少数を試験的に通常販売し、時期を見て本格的な量産に入る予定で、その価格は766万円となっていますが、現状ではまだリース販売のみの取り扱いです。

予想よりもかなり安くなった燃料電池車

トヨタは2014年12月に、世界初の量産型燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」を発売し、日本国内のライバルメーカーを始め、ダイムラーやGMといった世界の自動車メーカーを驚かせたことで、大きな話題となりました。

注目の燃料電池を搭載した水素自動車、「MIRAI」の販売価格は723万円となっています。これは五年ほど前に、燃料電池車の価格は1台約1億円と予想されていた事を考えれば、トヨタ、ホンダ共に相当な努力をして、ここまで価格を抑えることができたといえます。

さらに燃料電池車には政府からの補助金が、202万円用意されていますから、実際には販売価格よりもかなり安く買うことができます。

トヨタの燃料電池車はさらに低価格に

またトヨタは2020年に「MIRAI」の次期型となる、新しい燃料電池車を発売するという方針を固めており、その際は燃料電池の生産コストを半分にまで下げ、現在の723万円から大幅に車両価格を下げて販売する予定だといいます。

さらに2025年には、燃料電池の生産コストを現状の四分の一にまで削減する見通しだといいますから、かなり現実的な安い価格で水素自動車を買うことができると予想され、大いに期待したいところです。

水素自動車の燃費について

水素自動車の燃費について説明します。

ハイドロジェン車の燃費

まずハイドロジェン車の燃費ですが、BMWの水素自動車「ハイドロジェン7」では、8㎏の水素タンクを使用して液体水素を貯蔵しています。その水素燃料のみ使用した場合の航続距離は200㎞となっています。

水素1モルの質量は2g、体積は22.4ℓですから、水素1㎏(1000g)あたりの体積は(1000/2)×22.4で11,200ℓになります。

水素を液化することで1/800まで体積を縮小

ハイドロジェン7では-253℃という極低温にて水素を液化し、8㎏分を貯蔵しています。液化すると水素の体積は1/800まで縮小されます。つまり液化により水素1㎏あたりの体積は、11,200ℓ÷800で14ℓとなり、14ℓ×8で112ℓ分の水素を貯蔵していることになります。

非常に悪いハイドロジェン車の燃費

ハイドロジェン7の水素燃料のみでの航続距離は200㎞ですから、燃費は水素1ℓ当たり1.78㎞となります。これはガソリン車やディーゼル車とは比較にならない燃費の悪さです。

またマツダの水素自動車「RX-8ハイドロジェンRE」では110ℓの水素タンクで、航続距離が150㎞となっており、燃費は1ℓ当たり1.36㎞と、総排気量5972ccV型12気筒エンジンを搭載する、BMWよりもさらに悪くなっています。

このように、現在の技術ではハイドロジェン車は燃費があまりにも劣悪で、とても実用的とは言えません。

燃料電池車の燃費

トヨタの燃料電池搭載の水素自動車、「MIRAI」の航続距離は約650㎞、水素充填圧70Mpaの圧縮水素タンクの容量は122.4ℓで、約4.6㎏の水素を充填可能との事です。

燃料電池車の場合は、圧縮水素を化学反応させることで電力を生みだしており、水素燃料を直接燃やしてエネルギーとするわけではないため、ハイドロジェン車みたいに1ℓ当たりの走行距離といった計算はできません。

ハイブリッドカー並みの燃費性能を実現

そのため燃料電池車では水素1㎏あたりの走行可能距離で燃費を計算し、すると「MIRAI」の燃費性能は141㎞/㎏となります。岩谷産業が運営している水素ステーションでは、水素1㎏あたり1,100円で販売しています。

これをレギュラーガソリンの価格を135円として換算すると、水素1㎏はガソリン8.15ℓ分に相当します。「MIRAI」の航続距離が水素1㎏あたり141㎞ですので、ガソリンに代えて計算すると1ℓ当たり約17.3㎞となります。

このように、燃料電池車の燃費はトヨタが公示していたとおり、現在市販されているハイブリッド車並みの燃費性能となっています。

水素自動車は

現在市販されている、水素自動車を紹介します。

トヨタ・MIRAI(ミライ)

トヨタの水素自動車「MIRAI(ミライ)」は、2014年12月に発売した世界初の量産型燃料電池車です。

「MIRAI」の特徴は、燃料電池車の要となる、水素と酸素を化学反応させて発電する「燃料電池スタック」を小型化して、乗用車に搭載可能とし、同時に圧縮水素を貯蔵する高圧水素タンクと、ハイブリッド技術とを融合させた「トヨタフューエルセルシステム(TFCS)」です。

このシステムによって、約3分間という、電気自動車の急速充電の1/10という短い水素充填時間で、最大約650㎞もの長い航続距離を可能にしています。また1㎏あたり1000~1100円という現在の水素燃料の価格で、ガソリン価格に換算すると、1ℓ当たり約17.3㎞というハイブリッド車並の優秀な燃費性能を実現しています。

重心が低くパワーがあり運転が楽しい

「MIRAI」では、燃料電池スタックや炭素繊維を用いた水素タンク、バッテリーなどを小型化し、床下に搭載したことでスペース効率に優れ、広い室内空間とゴルフバッグを3個収納できる十分な広さのトランクを持っています。

車両重量は1850㎏と重いですが、重心位置が低いため操縦性に優れ、また電気モーターによる高トルクで、発進時から力強い走りを実現しています。さらに非常に静かで乗り心地が良く、快適なドライブを楽しむことができます。価格は723万円です。

ホンダ・クラリティ・フューエルセル

クラリティ・フューエルセルは、ホンダが2016年に発売した燃料電池車です。この車はトヨタの「MIRAI」と同じセダンタイプですが、こちらは随分雰囲気の異なるクーペスタイルのセダンとなっており、そのボディサイズは全長4915㎜、幅1875㎜、高さ1480㎜と「MIRAI」よりも一回り大柄です。

クラリティ・フューエルセルの特徴は、「MIRAI」に比べてさらにゆとりのある室内空間を持っていることです。特に後部座席は足元にも余裕があり、非常にゆったりとしています。これは燃料電池スタックを床下ではなく、モーターなどのパワーユニットと共に車体前部に一括して搭載したことによる物です。

価格は766万円と「MIRAI」よりも40万円以上高価ですが、その分ライバルにはない高級感を前面に打ち出しています。なお、現在はまだリース販売のみの取り扱いとなっています。

水素自動車と電気自動車の違いとは

水素自動車と電気自動車の違いについて説明します。まずハイドロジェン車については、水素を燃料としてエンジン内で直接燃焼させることで、エネルギーを発生して走行する車ですので、電気モーターで走行する電気自動車とは違い、内燃機関を搭載したエンジン車となります。

次に燃料電池車については、こちらも電気モーターを使用して走行するため、車の成り立ちとしては電気自動車と同じですが、水素を使って電力を生み出す「燃料電池スタック」を搭載しているところが異なります。

燃料電池車では、電気自動車みたいに家庭用電源で14時間、ディーラなどに設置された充電スタンドでは30分という、充電時間が必要ないのがメリットです。その代わり車両に搭載された水素ボンベに、水素を充填するのに約3分間かかります。

水素自動車が持つ問題点について

水素自動車は現在、ハイドロジェン車、燃料電池車を含めてまだまだ普及が進んでいません。それは水素自動車自体が抱える問題や、または水素を燃料として供給することについて、多くの課題があるからです。

このような水素自動車が持つ問題点について説明します。

非常に効率の悪いハイドロジェン車

水素を内燃機関の燃料として直接燃やす、ハイドロジェン車は1990年代から自動車メーカーによって試作され、ガソリン車と遜色ない走行性能を持つまで発展しましたが、その普及はおろか、ハイドロジェン車では先端を進んでいたBMWとマツダは、ハイドロジェン車の研究開発を中止し、今後は他社と共同で燃料電池車の開発に切り替えることを発表しています。

その理由は水素を燃料とした場合に、ガソリンや軽油と比べてあまりに効率が悪いからです。BMWが開発を進めてきたハイドロジェン7は、最高出力260馬力を達成するなど高性能に見えますが、この数字はベースとなった760Liが持つ最高出力445馬力に比べるとかなり低下しています。

ハイドロジェン車の未来は無きに等しい?

これはマツダのRX-8ハイドロジェンも同じで、通常は230馬力のところを、水素を使用した場合は138馬力に落ちてしまうとの事です。これは水素は発熱量が低く、かつ燃焼速度が速いため異常燃焼を起こしやすいなどの理由から、燃料とした場合はガソリンに比べて40%程馬力が落ちてしまいます。

同時に燃費も非常に悪いため、BMWもマツダもガソリンと併用可能なバイフューエル車として、何とか実用にこぎつけました。

このように、将来ハイドロジェン車が一般に普及する可能性は、ほぼゼロに近いくらい少なくなっています。

燃料電池車はコストが問題

トヨタが2014年12月に、世界初の量産型「MIRAI」を発売したとして、大きな話題となった燃料電池車ですが、発売から二年を経過した2016年末の時点で、「MIRAI」の国内登録台数は1370台と伸び悩んでいます。

それは燃料電池車には欠かせない水素ステーションの建設が、予定どおりに進んでいないというのが主な要因だと考えます。水素ステーションには一か所当たり何と4億円という建設費用が掛かり、その顧客として一か所につき1000台以上の、燃料自動車がなければ採算が取れません。

さらに燃料電池車の要となる「燃料電池スタック」の生産には、現時点ではコストがかかり、1kwあたり約6000円程度で、現在の自動車用燃料電池スタックの最大出力は100kwくらいですので、現時点では燃料電池のみで60万円もの製造コストがかかり、車両価格に大きく響きます。

燃料電池車の本格的な普及を目指して

自動車メーカーは、2030年に燃料電池車を本格的に普及させるという見通しを立てており、それに向けて燃料電池の製造コストを、1kwあたり2500円以下にする計画を打ち出しているといいます。その前に、まずは車両販売価格を500万円程度にするのが目標となります。

また2018年1月には北米カリフォルニア州で、トヨタの燃料電池車「MIRAI」の販売台数が、2015年10月に始まった現地での販売開始以来、二年三か月で3000台を突破したと報道されました。そのため、今後の自動車メーカー各社による、燃料電池車普及に向けての努力に期待が高まります。

水素の生産自体にも大きな問題が

水素は従来の化石燃料とは違って、そのままの形では地球上にほとんど存在していません。そのため水や炭化水素といった水素の化合物から取り出して、製造する必要があります。

水素自動車の燃料となる水素を製造するには、いくつかの方法がありますが、その製造方法については、それぞれに問題を抱えています。

石油や天然ガスから製造するのでは本末転倒

水素の製造法として現在主流となっているのが、石油や天然ガスといった化石燃料に水を混ぜ、高温で分解する方法です。しかし、これでは化石燃料を燃やすことになるため、CO₂やNOxなどの温室効果ガスを排出してしまいます。

せっかく水素を使ってCO₂を排出しない車を走らせても、肝心の水素を生産する際にCO₂を発生したのでは、本末転倒となります。これはバイオマス燃料を使用した場合も同じで、水素を発生させる代わりに、燃焼によって温室効果ガスを排出してしまいます。

自然エネルギー発電を使うのは二度手間になるだけ

CO₂を出さずに水素を作る方法としては、太陽光や風力によって発電した電力を使って、大量の水を電気分解し、水素を取り出すという物があります。

確かに温室効果ガスを発生させず、クリーンな方法ではありますが、しかし、せっかく莫大な費用をかけて自然エネルギー発電所を作り、電力を生み出したなら、それをそのまま電気自動車に充電した方が効率がいいでしょう。

わざわざ電力を使って水素を取り出して、それを燃料電池車に入れて再び電気を作り出すのは、ムダな手間を掛けるだけで意味は無いでしょう。

工場の副産物として発生した水素では間に合わない

温室効果ガスを排出せず、しかも低コストで実現できる水素の製造方法としては、化学工場や製鉄所の生産工程で発生する、水素ガスを集めて貯蔵するという物があります。これなら副産物のため、実質的に経費が掛からないため、提案されている方法です。

例えばメッキ工場を始め、基礎工業薬品として広く使われている苛性ソーダの生産過程では、高濃度で質のいい水素が生成されています。しかし、その多くはその工場内でリサイクル燃料として使われている場合がほとんどで、燃料電池車用に安定供給するのは困難です。

燃料電池車の普及には新たな水素製造法が必要

このように、現在は燃料電池車のための水素を製造するのに、クリーンでしかも低コストといった方法は存在しません。そのため、将来的には低コストで大量に生産でき、しかも温室効果ガスを排出しない水素の製造方法が必要と考えます。

その一つがパナソニックが開発を予定している「光触媒による太陽光を利用した水素生成装置」です。これはニオブという金属を使用した光触媒に、太陽光の中でも最もエネルギー量の多い「可視光線(かしこうせん)」を当てることによって、水に直接化学反応を起こさせて水素を取り出すという物です。

このニオブという物質は資源量も豊富で価格が安定しており、同社では既に太陽光発電パネルとして製品化しています。この方法では水から直接水素を取り出せるため効率も良く、CO₂を発生しないため将来性があるとして、非常に期待されています。

水素自動車は爆発する?

例えば事故などで車体がクラッシュした場合に、燃料電池車では内蔵された水素タンクが破損して、中の水素ガスが発火し爆発するのではという疑問が湧きます。

この問題に対し、トヨタでは、「MIRAI」に搭載した炭素繊維製水素タンクの強度と耐久性に自信があり、テストで停車中に時速80㎞で別の車を衝突させ、車体が衝撃を吸収しながら大破しても、水素タンクは破損せず、水素漏れも無かったといいます。

最も危険なのは、自宅の屋内ガレージに保管していた際に、家屋に火災が発生し、車庫内が高温となることで、水素タンク内の圧力が上昇し、タンクが破裂する場合だといいます。このため、「MIRAI」では高温になるとタンクに備えられた「溶栓バルブ」から、中の水素を放出して破裂を防ぎます。

また水素は空気よりも比重が軽いため、大気中に出ると素早く上空へと放散し、引火してもガソリンみたいに車体が爆発炎上することはありません。

水素自動車の将来に大いに期待しましょう

話題の水素自動車について、その成り立ちや価格、気になる燃費性能などを紹介しました。

地球温暖化の原因物質となる、温室効果ガスの排出量削減が、先進国の間で早急の課題として取り上げられる中、トヨタはCO₂を一切排出しない車として、世界初の量産型燃料電池車「MIRAI」を発売し、各国の自動車メーカーを驚かせました。

しかし水素ステーションの建設や、燃料電池の生産コスト、また燃料となる水素の製造方法など、水素自動車の普及にはまだ多くの課題があります。

トヨタを始め、各自動車メーカーならびに、岩谷産業やパナソニックなど水素製造会社では、将来の本格的な燃料電池車の普及を目指して、新技術の開発など努力を続けていくといいます。

地球環境にやさしい車として、私たちの暮らしをより豊かにする、今後の水素自動車の将来に大いに注目しましょう。

初回公開日:2018年03月12日

記載されている内容は2018年03月12日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。

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