エアブレーキの構造の説明・踏み方・コツ・点検方法|大型車
更新日:2024年09月22日
エアブレーキの構造の説明
普段私たちの身近にある乗用車とは違い、トラックやバスが停車した際に「プシュー」という独特な音が聞こえる時があります。「プシュー」という音が聞こえた時は、エアブレーキを制御するエアが抜けた(排出された)ことを意味します。
エアブレーキの「エア」は、英語では「AIR BRAKE」です。つまり「空気」を使用するブレーキを意味します。正確には空気の圧力である空圧を使用します。これに対し油圧ブレーキは油圧(油の圧力)を使用するブレーキを意味します。空圧も油圧も、いずれもパスカルの原理を応用した技術です。
パスカルの原理とは?
パスカルの原理は17世紀に生きたフランス人哲学者、ブレーズ・パスカルによって発見された原理で、物理ではあまりにも有名な原理です。それは「密閉された容器の中にある流体はその容器の形に関係なく、単位面積当たり等しい力(つまり等しい圧力)を伝える」という原理です。
このパスカルの原理は、シリンダーあるいはアクチュエーターと呼ばれる部品を介して(力を与えたい側の面積を大きくすることで)小さな力を大きな力に増幅できるというメリットがあります。
具体的には、飛行機のフラップ制御や建機のパワーショベルに使用される油圧の他、バスの扉を開閉する空圧など、現代ではいろいろな分野で応用されている技術です。エアブレーキならばその圧力にエア(空気)を、油圧ブレーキならば油の圧力を使用しています。
エアブレーキと油圧ブレーキの違いとは?
エアブレーキと油圧ブレーキ、両者の違いを考えた場合、油圧の特性は圧縮性が低く、エアブレーキに使用されるエアは圧縮性が高いという特徴があります。簡単に言うと、高い圧力をかけても油の体積は変化が少なく、逆に高い圧力のエアは体積がとても小さくなります。
また(油が沸騰しない範囲までで)温度が高くなった場合にはエアは爆発的に膨張しますが、油の体積変化は少ないという特徴を持ちます。
さらに近年の環境側面からは「嫌われ者」の油と違い、エアブレーキのエアは空気ですので、私たちが生活している地球上にはそこいらじゅうにエア(空気)があります。
したがって、いつでも空気を取り入れて、コンプレッサーと呼ばれる圧縮装置で空気圧力を高めて、逆に空気圧力を下げたい場合には排出して減圧するといったことが比較的簡単にできるメリットがあります。
エアブレーキと油圧ブレーキはどちらが良い?
エアブレーキのエアの高い圧縮性は、同じ圧力ならば液体のオイルよりもコンパクトになり、一見するとメリットばかりだと思えるのですが、圧力容器(タンク)から送りこまれた空気は、圧縮した後で圧力が高まってからシリンダーやアクチュエータが動作しだすので、ブレーキ動作レスポンスが遅れるというデメリットを併せ持ちます。
一方で圧縮性の低い油は圧力容器から送られた後、圧縮し難いのでブレーキ動作レスポンスが良いとされています。これら両者の圧縮特性の違いから、日本では圧縮性の高いエアと圧縮性の低い油圧の双方の利点を使用するハイブリッド型エアブレーキ(エアオーバハイドロ方式)がこれまで多く取り入れられてきました。
しかしながら近年は、エアブレーキのレスポンス向上などのエア制御技術向上や、エア回路のみによるメンテナンス性能の良さから、現在は空気圧のみで行うフルエアブレーキ方式が主流となっています。
ブレーキチャンバー
ブレーキチャンバーはエアブレーキの構成部品に含まれるアクチュエータで、エアの空気圧による力を変換するメカアクチュエータとして構成されます。
スプリング式やピストン式など、ストロークと荷重によって何千種もの種類がありますが、フルエアブレーキに使用されるチャンバーにはウェッジブレーキチャンバが使用されていて、部品点数が少ない事から車両重量の軽減にも貢献しています。
ブレーキチャンバーのピストンがエア圧を得て押し出されるとブレーキ方向に力を発揮します。一方エアがリリース(排出)されてブレーキチャンバーのピストンが戻されると、ブレーキ力は解除されます。また、ブレーキチャンバーは直接的にエアブレーキの制御を担う重要な部品ですので、メーカーは2年から3年の部品交換を推奨しています。
リレーバルブ
ブレーキチャンバーへのエアの出入りを制御しているのがリレーバルブです。
簡単に言うと、電気信号を元に、大きな制動力(ブレーキ)が必要な時にはエアをブレーキチャンバー内に送る方向に切り替えて、エアを抜きたいときにはエア排出側へ切り替える、あるいはエアを保持したいときは中立に保った状態を維持するという動作を行うのがリレーバルブです。
リレーバルブの動作によってエア圧を得たブレーキチャンバーは高いブレーキ力を作用し、リレーバルブのリリース動作によってブレーキチャンバーが戻されて、ブレーキは解除されます。ブレーキチャンバーと共に、リレーバルブもエアブレーキの制御を直接的に担う重要な部品です。
リレーバルブへの埃侵入や、水分による冬場のバルブ凍結は、ブレーキ制御を直接的に妨げる危険な状況をもたらし、重大事故へと発展する可能性が高く、認定工場での定期点検が呼びかけられています。
エアブレーキの命綱
重い荷物を積載するトラックや、たくさんの人が乗車したバスなどの重量車両でも、エアの圧縮性を利用した高い制動力を得られるのがエアブレーキです。
しかしながら、パスカルの原理からもわかるように、エアブレーキは空気の圧力そのものが無くなってしまっては高い制動力を発生できません。つまりエアの空気圧こそが、エアブレーキ性能を発揮するのに欠かせない命綱だと言えます。
空気圧はコンプレッサーによってエアタンクに蓄えられますが、エアブレーキを使用するとブレーキ解除の度にエアが排出されて空気圧が低下します。また、コンプレッサーで空気圧を蓄えるにはある程度時間が必要です。
ですからエアブレーキを何度も繰り返すと(バタ踏み)コンプレッサーが蓄えるよりも速い速度でエア圧が低下していまい、エア圧が圧力計のレッドゾーンまで低下するとエアブレーキが全く利かなくなる事態に陥ります。まさに空気圧はエアブレーキの命綱です。
大型車のエアブレーキの踏み方・コツ
大型車にはエアブレーキが搭載されていますが、乗用車のブレーキの使用方法と異なる点は何でしょう。
トラック
2tトラックなど、比較的小さなクラスのトラックに搭載されるブレーキは、乗用車と同様の油圧ブレーキが搭載されています。乗用車と同様と言えども、2t車でさえも乗用車よりは積載重量は重くなりますので、車間距離を十分に保って余裕を持ったブレーキ操作を行いましょう。
4t以上のトラック
4t以上のトラックとなるとエアブレーキが標準で装備されます。大型バスにもエアブレーキが搭載されています。エアブレーキは重い車重によって制動力が低下した車両のブレーキを強力にするので、荷物を積んでいないトラックや人があまり乗っていないバスなどの場合、車重によっては効き過ぎてしまうほど強力なブレーキです。
しかしながらエアの空気圧によってもたらされるブレーキ力ですので、短時間で何度も繰り返してエアブレーキを行ってしまうと(バタ踏み)、空気圧は低下して全くブレーキが効かなくなる事態に陥ります。実際、エア圧を失ったエアブレーキによる大型車両の事故も発生していて、国土交通省からもバタ踏みに関する注意喚起が行われています。
またオルガン式ペダルブレーキであれば、上の方がブレーキペダルをストロークさせ易いので、エアブレーキが必要な時は、ここぞとばかりにペダルの一番上を思い切り踏み込みましょう。
エアブレーキの点検方法
エアブレーキの点検方法について見てみましょう。
ブレーキ操作
ブレーキペダルの遊びも重要ですが、きちんとブレーキペダルが戻ることも重要です。エアブレーキに限らず2t以下の油圧ブレーキにおいても、ブレーキペダルが戻らないと摩擦熱によって油温度が上昇し、ブレーキが効かなくなるペーパーロック現象が発生する可能性もあります。
また積載物の特性から、水を含んだ泥がブレーキペダルの摺動部に付着すると、発生した錆によってブレーキペダルが戻らなくなることもあり得ます。毎日のブレーキ操作の点検は、事故を未然に防ぐ点で重要です。
またエアブレーキの場合、通常に比べてエアの排気音が短くなった場合や長くなった場合、あるいはブレーキペダルの遊びが大きくなった場合は、ブレーキバルブの内部部品に不具合が起きている可能性も考えられます。
エア圧力
エアブレーキの命綱とも言えるエア圧(あるいは空気圧)がレッドゾーン、あるいはゼロの場合にはエア管内の亀裂など、エア漏れが生じている可能性があります。また、エア圧の上りが遅い場合、エア管内やエア機器の微量なエア漏れの他、コンプレッサー事態の不具合も考えられます。
また、バタ踏みなどによりエア圧が低下した場合は、圧力センサー検知によって警報音が鳴ったり、インターロック作用によってトラックが動作しなくなることがあります。
いずれにせよ、ブレーキ系統の故障はすぐに重大な事故に発展する可能性があります。あるいは自分自身の命失うだけでなく、他人の命をも奪ってしまう事態発生もあり得ます。ですからブレーキ系の異常を感じたら、すぐに専門機関や認定工場での整備、点検を行うことをお薦めします。
空気のチカラ
大型トラックやバスに標準されるエアブレーキですが、他にも空気の力を利用したエアサスペンションや、坂道発進を行う際に車両が後方に下がるのを防ぐ自動エアブレーキ、ギヤシフト(トランスミッション)の補助など、ありとあらゆる面でエアが使用されています。
ですのでエアブレーキを搭載した車両においては、エンジンオンで蓄え始められるエア圧なしでは、トラックライフの走行も始まりません。そもそも私たちの身の回りにある空気は、私たち人間が意識しないで行っている呼吸で取り入れるための適切な濃度の酸素を含んでいます。
大型トラックやバスだけでなく、私たち人間やその他、この地球上に住む生物の生命活動は、はるか昔から「空気」なしには成り立ちません。エア圧でブレーキ力を増幅させる「空気のチカラ」の重要性を認識すると共に、改めて、身の周りにある見えない空気の存在のありがたさを感じて呼吸してみましょう。
初回公開日:2018年05月02日
記載されている内容は2018年05月02日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
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