車のオーバーハングの特性・リアオーバーハングとの違い・注意点
更新日:2024年08月16日
車のオーバーハングの特性について
自動車教習所では、免許を取得するのに必要な知識と技能を見につけるための講習が行われています。その教習の中でも、実際に車を運転する場合に特に重要なことは自動車が持つ特有の性質を知り理解しておくことで、それによって走行中に起こりうるあらゆる事態を予測して操縦することです。
そういった、自動車特有の性質のひとつに「オーバーハング」があります。オーバーハングとは、ボディ前後の車輪から外へはみ出した部分のことで、車の操縦性はもちろん居住性やユーティリティーなどに大きな影響を及ぼし、車体の設計やデザインにおける重要なポイントです。
そのようなオーバーハングについて、その特徴や性質、リアオーバーハングとの違い、また運転の際の注意点などを解説していきます。
オーバーハングって何?
自動車のオーバーハングとは、ボディ全体を真上から見た際に前後の車輪の中心を結ぶ線(車軸またはトレッド)よりも外側にはみ出した部分のことをいいます。
車を真横から見た場合には、前後の車輪の中心から地面に垂直に引いた線から、ボディの最前部または最後部までの範囲にあたる部分です。この際、前車軸より前方にはみ出した部分を「フロントオーバーハング」、後車軸よりも後方へはみ出した部分を「リアオーバーハング」と呼びます。
オーバーハングは、車の持つ性質を示す指標の一つとして全長、全幅といった車体の寸法を測る数字としても使われています。その場合は、前後の車軸中心線からそれぞれボディの最端部までの距離を計測し、例えばフロントオーバーハング〇〇mmと表します。
カーデザインにおける重要な要素
ボディのオーバーハングは、デザイン上の重要ポイントとして取り扱われます。
オーバーハングが短い車は、前後四つのタイヤがしっかりと地面を踏ん張る感じがあり、俊敏でスポーティーなイメージを与えることができるでしょう。オーバーハングが長い車ではややおっとりした雰囲気になりますが、その分くつろげる室内など上品で高級な印象を持たせることができます。
このように、前後のオーバーハングを上手く活用することで、車の性質や使用用途、また想定されるユーザーの嗜好に合わせた適切なボディデザインを創造します。
走行特性を決める設計上の重要ポイント
オーバーハングはデザインのみでなく、当然ながら車体の設計にも大きな影響を持っています。特に車の走行特性において、前後のオーバーハングはコーナーリング時のスムーズな旋回性能や走行安定性といった操縦性を左右する重要な要素になります。
その理由は、車の中心部から離れたオーバーハング部の重量が、コーナーリング中に車体に掛かるヨーイングやピッチングという慣性モーメントの大きさと深く関係しているからです。
フロントオーバーハング部が重すぎるとコーナー進入時の慣性モーメントが大きくなり、それだけ曲がりにくい車となり、また、リアオーバーハング部が重すぎる場合はコーナー脱出時の慣性モーメントが大きいために、旋回状態から直進姿勢へと戻りにくくなり、コーナーリング時の操縦性が著しく悪くなります。
このように、車の操縦性を良くするには必要な分のオーバーハングを確保しながら軽量化した設計を行います。
エンジンレイアウトと前後のオーバーハング
自動車設計において、前後のオーバーハングはエンジンレイアウトとも密接に関係しています。エンジンレイアウトとは、車体におけるエンジンの搭載位置と駆動方式のことです。
FF(前エンジン前輪駆動)車の場合は、前輪による駆動力を十分に発揮させるために、エンジンを前輪車軸の真上のフロントオーバーハング部に搭載し直進安定性を高めています。
逆にポルシェ911などのRR(後エンジン後輪駆動)車は、後輪車軸の真上のリアオーバーハング部にエンジンを搭載し、コーナーでの俊敏な回頭性やリアタイヤのトラクション性能を高めて発進時の鋭い加速力を得ています。
またFR(前エンジン後輪駆動)車やMR(ミッドシップ後輪駆動)車では、前後のオーバーハング部から離れた車体の中央付近にエンジンを搭載して重心位置を集中させ、慣性モーメントを小さくしてコーナーリングの限界を高め、素直な操縦性を実現しています。
エアロダイナミクスへの影響
エアロダイナミクス(空気力学)は、車の走行性能に大きく影響し燃費の向上などを実現するとして、自動車開発には不可欠な要素です。このエアロダイナミクスにとって重要なのがボディのフロントオーバーハング部の形状です。
走行中にボディに掛かる空気抵抗の減少は、車の最高速度を上げると同時に燃費の向上にも非常に有効です。そのためには、まず「前面投影面積」を減らす必要があります。前面投影面積とは、車体を前方から見た際の水平断面の表面積のことで、フロントオーバーハングの形状によってその数値が大きく変化します。
前面投影面積を減らすには、フロントオーバーハング部をできるだけ低く薄い形状にデザインします。そのためには、必要最小限のオーバーハング部を確保しながら軽量化にも留意して設計されます。しかし、実際には前面投影面積のみでなくボディ全体の空気の流れを考慮して設計されていて空気抵抗が減少します。
レーシングカーではダウンフォースを得るため
サーキットを走行するレーシングカーの設計にも、オーバーハングは重要なポイントです。
レースに勝つためには、ストレートでもコーナーでもライバルよりも100分の1秒でも速く走ることが必要です。しかし、タイヤのグリップ力(路面を捉える力)には限界があるため、ボディーのエアロダイナミクス性能を高めることでダウンフォースを獲得します。
ダウンフォースとは、走行中に空気の力によって車体を路面に押さえつける力のことです。それは、車体底面の面積が広いほどより強い力が得られます。そこで、より大きなダウンフォースを獲得するために前後のオーバーハングを長く伸ばし、車体底部の面積を広げます。
とは言え、あまりオーバーハングを伸ばし過ぎると車体と路面との間に揚力が発生し、走行中に車が浮き上がり大事故につながるため、レースではレギュレーションによって長さに制限が設けられています。
オーバーハングとリアオーバーハングの違いは?
オーバーハングとリアオーバーハングの違いについて説明します。
オーバーハングは前後にある
自動車のオーバーハングは車体の前後に存在します。車を真横から見た場合に、前輪の中心から地面に垂直に引いた線からボディ最前部までの範囲を「フロントオーバーハング」、後輪の中心から垂直に引いた線と最後部までの範囲を「リアオーバーハング」と呼びます。
前後のオーバーハングは、コーナーリング時に車体の抵抗となる慣性モーメントの大きさと深く関係するため、操縦性を高めるためにはオーバーハング部の重量をより軽くする必要があります。
前後のオーバーハング部に、重量物のエンジンを搭載するFF車やRR車は車体の重心が前後に偏るため、ガソリンタンクをリアオーバーハング部に搭載したり、ポルシェ911の初期モデルでは、RR車特有の機敏すぎる特性を和らげるためフロントオーバーハングにおもりを載せるなどして操縦性を改善しました。
フロントとリアのオーバーハングの違いは?
フロントオーバーハングとリアオーバーハングとの違いは、フロントオーバーハングがボディーの空気抵抗を減らすために、デザイン上考慮するポイントです。
これに対し、リアオーバーハングはもちろん空気力学的にも重要ですが、乗用車の場合は車の荷室部分に当るため、リアオーバーハングが長いデザインとすることでユーザーに広い荷物スペースと使い勝手の良さをアピールできます。
また、トラックなどの貨物車においては、積載能力を高めるためにリアオーバーハングが長くなっています。そのため、市街地などで交差点を曲がる際に後輪から大きくはみ出したリアオーバーハング部が接触する「オーバーハング事故」に注意する必要があります。
トラックのオーバーハングの運転時の注意点
トラック運転時のオーバーハングに対する注意点を説明します。
4tトラックなど
自動車メーカーがトラックを設計する際は、車両総重量が定められた重さ以下になるように車体の重量や最大積載量が設定されています。一般的には、大型トラックが車両総重量25トン以下、中型トラックは8トン未満、小型トラックは4~5トン程度です。
4トントラックとは、車両総重量が8トン未満の中型トラックを意味する言葉です。4トントラックは最大積載量が4トンくらいまでという意味でこう呼ばれています。
車体の寸法は、例えばいすゞの中型トラック「フォワード」のGVW(Gross Vehicle Weight:車両総重量)8tの4トントラックでは全長8,485m、幅2,260m、高さ2,550mです。オーバーハングは前は1,170mですが後は2,390mと2m以上もあります。
運転にはリアオーバーハングのはみ出しに注意
4トントラックなどキャブオーバータイプの車は、前輪車軸の間あるエンジンの直上にキャビン(乗員室)があるため前オーバーハングはあまり問題ないですが、後オーバーハングは交差点などの右左折時に対向車線にはみ出し、後方から追突されたり対向車と接触させてしまう事があるため運転時には注意が必要です。
そのため、4トントラックでは交差点などを曲がる際は内側だけでなく外側のミラーもよく見て確認し、後オーバーハング部の安全確認をしましょう。とくに道幅の狭い道路では壁などに接触しないように注意しましょう。
また、右折時はハンドルを目一杯切らなくても曲がれるため、慌てずに少しずつハンドルを切ることでオーバーハングをはみ出さずに曲がることができます。
左折時は、なるべく道路の左側に寄り曲がる際にハンドルを切るタイミングを遅らせれば、内輪差を気にせずに後オーバーハングを外へふり出すことなく左折できます。
オーバーハング事故の防止方法について
オーバーハング事故の防止方法について説明します。
トラックの車両特性によって発生する事故
オーバーハング事故とは、リアオーバーハングの長い中型以上のトラックが持つ走行特性によって引き起こされる事故のことです。
オーバーハング事故で多いのは、一般国道における片側二車線の道路で、右折車線が設けられて三車線となった交差点手前付近の直線道路を走行中に発生しています。
交差点へ向かってトラックを運転中、前方に右折待ちをしている乗用車が車体後部を車線からはみ出して停車していたため、それをよけようとして左にハンドルを切り進路を変更した後、右に切りなおして進路を元に戻そうとした際にリアオーバーハング部を外へ振り出し、外側の車線を走行中の乗用車に接触してしまうという事故です。
原因は、前方で右折待ちをしていた車との安全確認に気を取られ、左のリアオーバーハング部の安全確認をしなかったためです。
オーバーハング事故を防ぐには
こういった事故を防ぐには、トラックの車両特性を十分に理解して運転する必要があります。左右のリアオーバーハングの振り出しは「オーバーハングの長さが大きいほど」「ハンドルを切る角度が大きいほど」大きくなります。
大型車では、リアオーバーハングの振り出し量が1mを越えることもあるため、運転する車両の特性をしっかりと確認しておきましょう。
また、周囲の安全確認を徹底することも大切です。運転中は常に周囲の道路状況に注意して安全確認を徹底して行いましょう。
さらに、安全な車両感覚を取ることも事故防止のためには重要です。オーバーハングによる振り出しは、自車だけでなく他車にも起きる問題です。前方を走行中の車両との安全な間隔を保持して運転しましょう。
オーバーハングの計算方法について
オーバーハングの計算方法について説明します。
車輪の中心からボディの端までの距離を測る
オーバーハングとは、車体を真横から見た場合に前後の車輪の中心から地面に垂直に引いた線から、ボディの最前部または最後部までの範囲にあたる部分です。この際、前車軸より前方にはみ出した部分を「フロントオーバーハング」、後車軸よりも後方へはみ出した部分を「リアオーバーハング」と呼びます。
オーバーハングの長さを測るには、前後の車軸中心線からそれぞれボディの最端部までの距離を計測します。
トラックのオーバーハング振り出し量の計算
トラックなどの大型車の運転で問題となる、リアオーバーハングの振り出し量を計算する方法は、車両の外輪差の数値を元に大方の計算をすることができます。
外輪差とは、車が右左折を行う場合に生じる外側の前輪と後輪の軌道の差です。外輪差のおおよその数値は車体のホイールベース(前後の車軸間の距離)の1/4です。
リアオーバーハングの振り出し量を計算するには、まずホイールベースにオーバーハングの長さを足した数値を計測し、それの1/4の値から外輪差の値を引いた数字を計算します。
いすゞの4トントラック、フォワードの標準ボディーフルキャブ仕様で計算すると、ホイールベースが4,860mm、リアオーバーハングの長さが2,390mm、それぞれを合計した数値が7,250mmですので外輪差が1,215mm、ホイールベース+リアオーバーハングの1/4が1,812.5mmとなり振り出し量は597.5mmとなります。
オーバーハングは車の性質を表す指標のひとつ
オーバーハングについて、その特徴や性質、リアオーバーハングとの違い、また運転の際の注意点などを紹介しました。
オーバーハングとは、車体を真横から見た場合に前後の車輪の中心からそれぞれボディの最端部までの範囲のことです。前方部分を「フロントオーバーハング」後方部分を「リアオーバーハング」と呼びます。
オーバーハングは、車の操縦性や居住性または商品としてのイメージにも大きな影響を及ぼし、車体の設計やボディーデザインの重要ポイントです。
また、トラックなどの大型車両では車体後端部の振り出しによって発生する「オーバーハング事故」が大きな問題となり、運転に注意する必要があります。
あなたも車選びのポイントとしてオーバーハングにぜひ注目し、また、大型車を運転する人はオーバーハング事故を防止するために車の特性を良く理解して運転をしましょう。
初回公開日:2018年04月18日
記載されている内容は2018年04月18日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
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