ダブルウィッシュボーンの構造・搭載車種・交換方法|オデッセイ
更新日:2024年08月09日
ダブルウィッシュボーンの構造について
車に興味を持ち始めて間もない人や、または車を購入しようとあれこれリサーチを始めた人たちの中には、「ダブルウィッシュボーン」という見慣れない言葉を目にした方も多いでしょう。
ダブルウィッシュボーンとは車のサスペンション形式の一つです。サスペンションとは自動車の懸架装置(けんかそうち)のことで、基本的には、自動車の車体に車輪を固定するための部品が組合わさった物を言います。
サスペンションは車選びの重要ポイントのひとつ
自動車には前後に二つずつ、計四つの車輪が装着されていますが(四輪車の場合)、そのために、前後それぞれにこの懸架装置(サスペンションユニット)が装備されています。
車のサスペンションユニットは走行性能や乗り心地といった、その車の性質を決定するうえで非常に重要な部品で、自動車の歴史と共にさまざまに進化を遂げ、現在までに多くの種類のサスペンション方式が誕生し、それぞれ車の用途に合わせて使用されています。
そのためサスペンション形式は車選びにおいても、少なからず重要なポイントとして考慮する必要があります。
このような、最近話題となっている「ダブルウィッシュボーン」方式と、自動車のサスペンションについて、その成り立ちや構造、それぞれの特徴や搭載車種などを解説していきます。
サスペンション方式の分類
車に車輪を固定するために装備されるサスペンションユニット(懸架装置)には、大きく分けて二種類あります。それは車軸懸架方式(リジッドアクスル)と、独立懸架方式(インデペンデントサスペンション)の二つです。
車軸懸架(リジッドアクスル)
車軸懸架とは、左右の車輪が車軸によって固定されている物で、こちらはまだ自動車が誕生する以前に馬車などで使われていた方式で、1930年代までは、ほとんどの車がこの方式を採用していました。
車体の傾きが少なく悪路に強い
車軸によって左右の車輪が固定されているため、片方の車輪の動きに対してもう片方が直接影響を受けることから、タイヤが路面を捉える力や乗り心地の面では不利ですが、カーブを曲がる際に車体があまり傾かず転倒しにくいことから、トラックやバスなど大型車両に適しています。
また悪路では片方の車輪が押し上げられると同時に、もう片方が押し下げられるため、車輪が浮き上がりにくく走破性が高いことから、悪路走行を重視したSUVなどに採用されています。
構造が単純で低コスト
さらに構成部品が主に車軸を含む懸架装置本体と、ばねなどの衝撃吸収パーツのみと単純で安価なため、かつては小型車や軽自動車など低価格の車には積極的に採用されていました。
独立懸架(インデペンデントサスペンション)
独立懸架とは車軸懸架とは違って、左右の車輪をそれぞれ独立して上下させることが可能な懸架装置のことです。ダブルウィッシュボーンは、この独立懸架方式のサスペンションの一つです。
乗り心地や走行性能に優れる
独立懸架では、左右の車輪がそれぞれ独立して働くことによって、地面の凸凹に対して車体の揺れを抑え、姿勢を水平に保つことができるため、乗り心地に優れるのと同時に、タイヤが地面を捉える力が向上し、左右の車輪の駆動力を効率よく路面に伝えることができ、走行性能が高まります。
構成部品が多く複雑でコストが高い
この方式では、まず左右の車輪ごとに複数のパーツで構成された「サスペンションアーム」と、それを車体に固定するためのサスペンションメンバー(サブフレーム)、それにスプリングやショックアブソーバーといった衝撃吸収装置を組み合わせた、かなり複雑な部品構成となります。
そのため車軸懸架に比べて高価となり、また走行状況によって(サスペンションのストロークに伴って)タイヤのアライメントなどジオメトリーの変化が大きく、運動性に優れる代わりに、走行中の急激な姿勢変化やタイヤの横滑りなどを起こしやすくなります。
ダブルウィッシュボーンサスペンションとは
ダブルウィッシュボーンとは独立懸架サスペンションの一つで、特にサスペンションアームの形状や部品構成に、大きな特徴を持つサスペンション方式です。
ダブルウィッシュボーンは、衝撃吸収部品としてコイルスプリング(うずまきばね)が誕生したのを機に、1930年代の初期にアメリカのGM(ゼネラルモータース)によって初めて開発されました。そのため、決して先進テクノロジーというわけではなく、自動車の黎明期からほどなくして誕生した、昔からあるサスペンション形式となります。
構造
ダブルウィッシュボーン方式とは、A字型をした二つのサスペンションアームが、そのA字の頂点の部分を支点として、アップライト(ナックルともいう)と呼ばれる車輪を取り付けるための部品を、路面に対してほぼ水平に上下から挟み込むことで支える物です。
またダブルウィッシュボーンでは、その上下のA字型サスペンションアームを、A字の足の部分で二か所、上下を合わせると四か所のリンク(四節リンク)によって車体につながれています。
上下のサスペンションアームの上側をアッパーアーム(アッパーサスペンションアーム)、下側をロワアーム(ロワサスペンションアーム)と呼びます。
ダブルウィッシュボーンの特徴
ダブルウィッシュボーン方式では上下のアームによって車輪が支えられているため、タイヤの横方向からの入力に対する剛性(ごうせい:曲げやねじれに対する強さ)が高く、車の走行安定性を高めることができます。
また上下のサスペンションアームによって剛性が確保されているため、コーナーリング(カーブを曲がる)中に、スプリングやショックアブソーバーといった衝撃吸収装置に負荷がかからず、サスペンションの動きが常にスムーズで乗り心地に有利となります。
ダブルウィッシュボーンの長所
ダブルウィッシュボーン方式ではサスペンションの剛性が高いため、スプリングやショックアブソーバーの性能をより生かしやすく、タイヤが路面を捉える力が強くなり、駆動力を効果的に路面に伝えることができ、コーナーリング性能をより高めることができます。
また、この方式では上下のアームの長さを変えたり、取り付け位置を変更するなどして、サスペンションのジオメトリー(トー角、キャンバー角、キャスター角など車の操縦性を決める重要な要素)を広範囲に設定することが可能で、走行性能や乗り心地といった車の性質を任意に変えることができます。
モータースポーツではレースが開催されるサーキットごとに、車の操縦性を速く走るために最適となるよう、細かな設定変更をする必要があるため、F1やWEC(世界耐久選手権)のプロトタイプスポーツカーを始め、レーシングカーでは通常ダブルウィッシュボーン方式を採用しています。
ダブルウィッシュボーンの短所
ダブルウィッシュボーン方式では部品点数が多く、また構造も複雑となるため高価となり、市販車の場合は生産コストが高くなります。
また部品点数が多い分重量がかさむため、乗り心地や操縦性に大きな影響を及ぼす「バネ下重量」が重くなりやすく、車両重量が軽い車ではかえって性能が悪くなることがあります。
さらに高さが必要なアッパーアームを設置するのに、必要なスペースを確保するため、その分、市販車ではエンジンルームやラゲッジスペースが狭くなってしまいます。
キャンバー角の変化を最小限に
ダブルウィッシュボーンの特徴として、タイヤのキャンバー角の変化を最小限に抑えるというメリットがあります。
キャンバー角とは、車を正面から見た時の地面に対するタイヤの傾き角度のことです。ダブルウィッシュボーンでは上下のアームが常に車輪をしっかりと支えることで、サスペンションが上下にストロークした時にキャンバー角があまり変化しないため、タイヤの路面に対する接地面が維持されてグリップ力が保たれ、しっかりと路面を捉えることができます。
車を正面から見て左右のタイヤが八の字に傾いている状態を「ネガティブキャンバー」、V字の状態を「ポジティブキャンバー」といいます。これは車の操縦性を設定する際の重要な要素で、基本的にはネガティブキャンバーが旋回性重視、ポジティブキャンバーが安定性重視のセッティングとなります。
独立懸架におけるその他のサスペンション形式
現在の車に使われている独立懸架方式のサスペンションには、ダブルウィッシュボーンの他にストラット、マルチリンクといった形式があり、それぞれ車の性質に合わせて採用されています。
またその他、現在の車では非常に多い、前輪駆動の車に使われているサスペンションとして、トーションビーム式があり、こちらはビームの取り付け位置によって独立懸架と車軸懸架の両方に属するサスペンション形式となります。
ストラット(マクファーソン・ストラット)式
ストラット式サスペンションは、スプリングとショックアブソーバーを組み合わせた衝撃吸収装置を、地面とほぼ垂直に設置して車輪を支える物で、衝撃吸収装置の上部と車体とを接合するアッパーマウントを、ダブルウィッシュボーンのアッパーアームとして使用し、同じ効果を非常に簡潔でコンパクトな構造によって実現することを狙ったサスペンション形式です。
1940年代にストラット式を開発したGMの技術者、アール・マクファーソン氏は、せっかく開発したこの方式を会社に採用してもらえず、仕方なくライバルメーカーのフォードに持ち込みますが、当時としてはあまりに革新的すぎ、残念ながら保留扱いとされました。
その後1950年代になって、ようやく小型車の「コンサル」に採用されると、革新的だと大いに注目され、これを機に世界中にこの方式が広まることとなります。そして現在までストラット式は世界的な主流となっています。
マルチリンク式
マルチリンク式は、ダブルウィッシュボーンの上下のアームが車輪を支える方式を元に、アームの代わりに複雑なリンク棒を複数(片輪あたり4~5本)組み合わせることで、より高度な乗り心地と走行性能の両立を狙った物です。
マルチリンク式は、1982年に登場したメルセデス190Eが「マルチリンク式リヤサスペンション」と称して発売されて以来、ダブルウィッシュボーンよりもさらに高い次元で乗り心地と操縦安定性の両立が実現できるとして、日本車を始め多くの車に同じ名を持つサスペンションが登場しました。
この方式ではダブルウィッシュボーンよりもさらに部品数が多く構造も複雑で、生産コストが高いため、サスペンションを始め、エンジンやプラットフォームなど多くの部品が共有され、合理化がされた現代の車では採用が少なくなりました。
現在はメルセデスのほぼすべての車種や、ポルシェ911などに採用されています。
トーションビーム式
トーションビーム式は、車輪とボディとの間に上下方向に稼働するトレーリングアーム(車軸を引っ張る形で取り付けられたアーム)を設置し、左右のトレーリングアームを捻れを吸収するトーションビームでつないだサスペンションです。
トーションビーム式は1974に登場したフォルクスワーゲン・ゴルフに搭載されて以来、現在まで前輪駆動車のリヤサスペンションとして広く使われています。部品が少なく構造が非常に簡素なため、荷物スペースを広くとれるメリットがあります。
またサスペンションの剛性も高く操縦安定性も良好ですが、構造が単純な分、セッティングの自由度が狭く、操縦安定性と乗り心地のバランスを取るのが難しいです。
トーションビーム式は現在、多くの前輪駆動車に、ビームをトレーリングアームの中ほどに設置した「カップルドビーム」による独立懸架方式が採用されています。
ダブルウィッシュボーン搭載車について
ダブルウィッシュボーン式サスペンションを搭載した車両について解説します。
オデッセイ
ホンダ・オデッセイは1994年に登場したミドルクラスのミニバンで、当時のミニバンブームの火付け役とされる人気車種です。オデッセイは同社の主力車種であった中型セダン、アコードをベースにしており、前後共にダブルウィッシュボーンサスペンションを採用した「乗り心地と操縦安定性を両立させた、上質な走り」が自慢のミニバンとして大人気となります。
しかし、ホンダは上級車種のエリシオンを廃止させたことから、現行の5代目ではオデッセイを上級車種へと移行し、車体を大型化すると共にサスペンションを前後ダブルウィッシュボーンから、前ストラット、後ろをリジッドの車軸懸架に変更、また両側スライドドアを採用するなど、走りの質よりも居住性や使い勝手を重視した車となっています。
またハイブリッド車もラインナップに加え、1ℓ当たり26.0㎞という低燃費で人気となっています。価格は364万6400円からとなっています。
アルファード
アルファードは2002年に登場したトヨタの高級ミニバンで、見るからに存在感のある大型のフロントグリルと、パワーウインドー付き両側スライドドアや電動開閉式テールゲートといった豪華装備満載で大人気となります。
アルファードでは新たなミニバン型の高級乗用車を実現するため、2015年登場の3台目からはそれまで簡素なトーションビーム式だったリアサスペンションを、オデッセイとは対照的に、新たにダブルウィッシュボーン式を採用したとして話題となっています。
それに加えてボディの剛性を強化したことで、乗り心地と走行安定性を向上させると同時に高い静粛性を実現しています。
価格は334~737万円と高額にもかかわらず、販売台数はミニバン全車で8と、兄弟車のヴェルファイアと共に非常に人気となっています。
ダブルウィッシュボーンの車高調整方法について
人気のミニバンをよりスタイリッシュに楽しむために、車高調整サスペンション使用してローダウンさせる方法があります。しかし、新たにダブルウィッシュボーンサスペンションを採用したことで人気のトヨタ・アルファード、ヴェルファイアでは、それのみでは十分に車高を落とすことができません。
理由は車高調のみで落としていくと、サスペンションアームがフレームや車体に干渉してしまい、走行に支障をきたしてしまうからです。
そこで車高調整システムでおなじみのJ-ラインから発売した、専用のアッパーアーム、リアストロークアップブラケットなどをセットにした「リアアンロックシステム」を使います。こちらを純正パーツとボルトオンで交換または装着することで、希望の車高までバッチリローダウンすることができます。
ダブルウィッシュボーンの交換方法は
ダブルウィッシュボーンサスペンションではストラット式とは違って、スプリングとショックアブソーバーがアッパーアームの穴をくぐるみたいに装着されていますので、取り外すときに邪魔になります。
したがって、交換する場合は上下のアームを取り外す必要があり、ナックルのボールジョイントや、アッパーマウントのナット、ロアアームのボルト、ナット、スタビライザーリンクのボルト、ナットなどを外さねばならず、かなり手間が掛かります。
またダブルウィッシュボーンではストラットとは違って、ショックアブソーバーの取り付け位置がロワアームの真ん中程度の位置に来るため、タイヤのストロークとショックのストロークが同じ量にはなりません。
そのため装着されるスプリングは、ストラットに比べて反発力の強い物になり、取り外すには、ダブルウィッシュボーン専用のコイルスプリングコンプレッサーが必要です。
ダブルウィッシュボーンの搭載車があるメーカーは
ダブルウィッシュボーン搭載車をラインナップに持つ、自動車メーカを紹介します。
ホンダ
ホンダは、市販車へのダブルウィッシュボーン方式の採用に積極的なメーカーとして知られています。それは1982年登場のスポーツクーペ、二代目プレリュードに始まり、中型セダンのアコード、1987年登場の4代目グランドシビック、CR-Xといった前輪駆動車に、前後ダブルウィッシュボーン方式を採用し、走りの良さを追求していました。
また90年代にはスポーツカーのNSXやS2000を始め、5代目から8代目までのシビック、ミニバンのオデッセイにも採用するなど、F1コンストラクターズ・チャンピオンとして、モータースポーツで活躍したホンダのアイデンティティの一つとなっていました。
現在は採用車種は少なくなりましたが、2016年に登場した新型NSXに採用され、次元の高い走りを実現しています。
トヨタ
トヨタは古くから市販車にダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用した自動車メーカーで、終戦直後の1947年に開発した「トヨペットSA型小型自動車」の前輪に、ダブルウィッシュボーン方式を採用しています。
これは戦前から、欧米諸国の技術にいち早く追いつきたいとの技術者たちの想いから、採用に踏み切られ、路面追従性と乗り心地の向上を狙った物でしたが、当時の日本の劣悪な道路状況にはとても適応できず、失敗に終わりました。
しかしトヨタはその教訓を生かし、1955年に発売した初代トヨペット・クラウンにもダブルウィッシュボーン式を採用します。こちらのダブルウィッシュボーンは前回とは異なり、十分な耐久性を備えていたため、乗用車のみでなくタクシーとしても好評で、人気車となります。
その後もクラウンは現在まで伝統のダブルウィッシュボーン式を採用し続け、日本を代表する高級車の地位を不動としています。
ダブルウィッシュボーンは上質な乗り味を実現するシステムです
ダブルウィッシュボーン式サスペンションについて、その成り立ちや特徴、ローダウンの仕方、搭載車種などを紹介しました。
ダブルウィッシュボーンは、乗り心地と操縦性の良さを高度に両立するための形式の一つで、元は1930年代初期に誕生した古くからある技術です。これは走りに高級感を出すために、現在の量産車では最も好ましい選択として、トヨタの高級ミニバンやハイブリッドカーの新型プリウスといった実用的な車に採用されています。
そのため決して理想の方式とは違い、乗り心地や走行安定性など機能面ではマルチリンク式がより優れ、運動性能やコストではストラット式やトーションビーム式が望ましい場合も多いなど、車種によって異なるということを覚えておき、車選びの検討材料にしましょう。
ダブルウィッシュボーンを始め、サスペンションについての知識を学ぶことで、あなたにとって理想の車を選択しましょう。
初回公開日:2018年03月07日
記載されている内容は2018年03月07日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
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