高機動車の中古はどうなるのか・防弾構造と購入方法|フィリピン
更新日:2024年09月13日
高機動車の中古はどうなるのか
世界の自動車市場では現在、SUV(Sport Utility Vehicle:スポーツ多目的車)のが盛り上がりを見せています。それは日本国内でも同じで、乗用車をベースとした「クロスオーバー型SUV」が各自動車メーカーから続々登場し、大きな注目を集めています。
そういったSUVや、本格的なオフロード走行が可能なクロスカントリー車の中でも、根強いを誇るのが、アメリカ、クライスラー社製のジープで、元は第二次世界大戦中に軍用車として開発された、頑丈で優れた悪路走破性を持つ四輪駆動車です。このジープは現在、輸入車の中でも大変なとなっていて、売り上げを大幅に伸ばしています。
高機動車は日本で生まれたジープ
日本の陸上自衛隊が運用を行っている車両にも、ジープと同じ抜群の走破性を誇る車両として「高機動車(こうきどうしゃ)」と呼ばれる車が存在し、話題となっています。この自衛隊が使用する高機動車のは高く、イベントなどに出品された際には、その姿を一目見ようと大勢の人が集まってきます。
またミリタリーファンやオフロード派の自動車愛好家の中には、高機動車を、実際にオーナーとして所有してみたいと考える人も多いといいます。では一体、高機動車のどこに、そういった人々の心を強く惹きつける要素があるでしょう。
このような高機動車について、その成り立ちや魅力、中古車はその後どうなるのか、また購入の仕方などを解説していきます。
高機動車とはどんな車?
高機動車とは、日本の陸上自衛隊が運用している車両の一つで、自衛隊員など人員を輸送する目的で開発された車です。
高機動車(HMV:High Mobility Vehicle )は、1993年に採用された車両で、現在までに、高機動車とそれをベースにした多くの派生車種を合わせて、累計3,000両余りが製造されています。一両当たりの調達価格は約700万円で、陸上自衛隊では普通科部隊(元歩兵部隊)のほとんどに配備され、現在も調達が継続されています。
トヨタ自動車によって開発された高機動車
高機動車の開発は陸上自衛隊とトヨタ自動車によって行われました。高機動車はアメリカ軍が使用している、有名な四輪駆動の軽汎用車両ハンヴィー(HMMWV)を目標として、開発が進められた、優秀な悪路走破能力と、舗装路での走行性能を兼ね備えた装輪車両(タイヤ付き車輪によって走行する車)で、外観もハンヴィーとよく似ています。
従来より陸上自衛隊で使用されてきた、73式小型トラック(通称ジープ)や73式中型トラックの旧態化に伴い、開発された高機動車は、走行装備にトヨタ・ダイナやトヨエースのエンジンを流用するなど、一般市販量産車の技術を応用しているため、一般道路での走行性能が高く、また部品面などコストの削減や、車両の生産性を向上させています。
高機動車は非装甲(ソフトスキン)の多用途車両
高機動車の車体は全長4.91m、幅2.15m、高さ2.24mで、車両重量は2,640㎏あり、前部座席に操縦士を含めた2名、荷台を兼ねた後部の対面式ベンチシートに左右4人ずつの計8名、あわせて10名の乗員が搭乗可能となっており、マイクロバスとトラック両方の機能を併せ持ち、人員輸送と物資の運搬の他、多用途に活用できる車両です。
この車は非装甲車両(ソフトスキン)として開発されており、基本型車両には防弾装備はなく、通常の鋼板製の車体と真空成型によるFRP(強化プラスティック)製ボンネットを装備しています。
標準では固定武装はなく、車体中央のロールバー(横転時に乗員を防護する鉄パイプ製フレーム)に銃架を装着し、そこに普通科部隊が装備する5.56㎜機関銃MINMIを取り付けて射撃を行うことができます。
ハンヴィーと同等の登坂能力と悪路走破性を持つ
高機動車に搭載されるエンジンは、最高出力170馬力の総排気量4,104cc直列4気筒ターボディーゼルで、4速ATと電動式センターデフロックを装備したフルタイム4WD方式を採用しています。これにより2.6トン以上の重い車体を、一般路では時速125㎞/hまで走行可能です。
サスペンションは四輪ダブルウィッシュボーンの独立懸架で、必要十分な最低地上高を確保するため、ハンビーと同じハブリダクションドライブ(ドライブシャフトがハブの中心軸(車軸)よりも上にオフセットさせるシステム)を装備しています。
これによって、ハンビーと同等の60%という驚異の登坂能力を実現し、砂漠や泥濘地など過酷な路面状況においても、抜群の走破性能を発揮すると同時に、油圧式の4WS(四輪操舵)機構も備え、大柄な車体ながら、非常に小回りの利く車両となっており、狭い道路での使い勝手にも優れています。
パンクしても法定速度程度の走行が可能
高機動車に装着されるタイヤは、ブリヂストン製の特注ランフラットタイヤで、また市販車のランドクルーザーのシステムを応用した、タイヤ空気圧調整装置が装備され、パンクしても、一般路では法定速度程度ならば走行が可能となっています。
車内には一部の車両にエアコンディショナーが装備され、シートのリクライニング機構や、オプションでラジオやCDプレイヤーなどの快適装備も装着可能といいます。
高機動車とハンヴィーとの比較は
このように米軍のハンヴィーを目標に開発された、陸上自衛隊の高機動車は、その走破能力や車体の耐久性など、軍用車両として非常に優秀な性能を持つ車ですが、ハンヴィーと比較すると、実戦での使用における堅牢さでは、あらゆる面で見劣りするといいます。
特に、エンジンとサスペンションの耐久性では大きな差があり、ハンヴィーではより過酷な使用にも耐えうる、自然吸気の総排気量5,200ccのV型8気筒ディーゼルを搭載し、高機動車が搭載するターボ付きディーゼルより、はるかに頑丈なエンジンとなっています。
さらにサスペンションは同じ4輪ダブルウィッシュボーンながら、一輪あたりの定格過重が3.7トンという高荷重のコイルスプリングを採用し、戦場で頻繁にみられる過積載状態での使用に耐えられるつくりです。
実戦を想定した装備が随所にみられるハンヴィー
その他にも、飛び石や被弾による破損から視界を確保する、二分割式フロントガラスを採用するなど、ハンヴィーでは高機動車に比べてより実戦での使用を想定した構造となっています。
ちなみに同じ陸上自衛隊の高機動車でも、イラクやハイチへの派遣で活躍した「国際任務仕様」では、防弾ガラスの採用や防弾板の追加といった改良が加えられています。
高機動車の中古車はどうなる?
陸上自衛隊の高機動車は1993年より調達を開始し、普通科部隊に配備されて運用が行われています。現在、生産された高機動車の初期型、および中期型の一部の車両が規定の耐用年数を迎え、廃車になったといいます。
これは高機動車に注目しているミリタリーファンや、オフロード車愛好家にとって、そういった車両がその後どうなったのか、非常に気になるところでしょう。
高機動車を含め、自衛隊が運用する全ての車両は、送迎車やバスといった一般市販車をそのまま使用した車を除いて、使用後は全てスクラップにされて廃棄されます。そのため、廃車された高機動車が、販売店やオークションといった中古車市場に流通することはなく、残念ながら一般の人が購入することはできません。
フィリピンで高機動車の中古が売られていた?
このように自衛隊が運用する車両は、博物館への展示など特別な場合を除けば、すべてスクラップとして廃棄され、市場での売買を始め、使用などが一切禁じられています。
しかし、そのような自衛隊車両が、何とフィリピン国内で中古車として販売されていたという、驚愕の事実があります。
この車は、紛れもない陸上自衛隊の高機動車で、掲載されたネット記事によると、かなり状態の良い車だといいます。またフィリピンの道路法規に適合させるため、左ハンドル仕様に改造されています。
同様の車両はロシアでも確認されており、こちらは元の高機動車と同じ右ハンドルだったといいます。
スクラップされた高機動車が海外で甦る?
必ず廃棄されるはずの高機動車が、一体なぜ、海外ではこのようにして販売されているのか、事実は不明ですが、考えられるとすれば、耐用年数を過ぎた自衛隊車両が廃棄される方法に秘密があるでしょう。
高機動車を始め、耐用年数を過ぎた自衛隊車両は自衛隊内部ではなく、入札制度によって一般の解体業者の手によってスクラップにされます。もちろん、そういった業者が定められた解体作業を行わずに車両を売買することは厳禁のため、自衛隊側で廃棄状況の確認が必ず行われるそうです。
解体された車両はその後、「グラムあたり何円」という鉄くずとして取り扱われます。おそらくフィリピンなど海外の販売業者は、こうしたスクラップされた部品をまとめて購入し、それを使用して元の車へと再生し、販売していると考えます。
ホンモノの高機動車を逆輸入した一台がある
実はそういった高機動車の一台が、日本へ逆輸入された例があります。その車両を購入したのは、埼玉県寄居町のサバイバルゲーム場「Rock254」です。こちらではお店をアピールするために適した車を探していたところ、この個体を探し当てたといいます。
「Rock254」では、利用者に、このホンモノの高機動車を見たり、記念撮影したりすることができるといいますから、興味のある方はぜひ出かけてみましょう。
高機動車の防弾構造について
陸上自衛隊が調達している高機動車は、人員や物資の運搬用に開発された多用途車両で、米軍のハンヴィーと同じで多くの派生車種があります。
高機動車は災害時などの人命救助や、海外の紛争時に邦人の救出などの際に有効な、抜群の走破性能と機動力を持つ車両ですが、装甲車などと違って、固定武装や防弾装備などをもたない非装甲(ソフトスキン)車として開発されているため、車体は防弾構造にはなっていません。
しかし高機動車のボンネットは真空成型のFRP(強化プラスティック)製で、こちらは防弾構造となっていますが、エンジンを冷却するラジエーターは通常の市販車と同じで、車体前部に垂直に搭載されており、実戦では銃撃により容易に破損するおそれがあります。
高機動車の購入方法について
高機動車の購入方法について説明します。
販売されているの?
高機動車を始め、自衛隊で運用されている戦車、装甲車、トラックなどの人員輸送および物資運搬用車両、偵察用オートバイといった全ての車両は、新車はもちろん、耐用年数終了後の中古車においても、一般の人への販売は一切禁じられており、購入することはできません。
耐用年数を過ぎて廃車となった高機動車は、自衛隊の監督の下、入札制度によって選ばれた民間の解体業者の手によって、すべてスクラップにされ、その後はグラムいくらの「くず鉄」として扱われます。
ホンモノの高機動車をどうしても手に入れたい?
こうして解体された高機動車の部品を、海外の業者が「くず鉄」としてまとめて購入し、その部品を使用して元の高機動車へと再生した車両が、フィリピンやロシアなどで販売されているというケースがあるといいます。
そういった「くず鉄からの再生車両」をどうすれば逆輸入できるのか、また輸入できたとしても、日本で車両登録をして一般道を走行可能かなど詳細は不明ですが、それには、おそらく相当な費用と労力とを要するでしょう。
民間仕様の高機動車
自衛隊の高機動車を、労せずに購入する方法があります。それは陸上自衛隊の高機動車をベースにした民生用車両「トヨタ・メガクルーザー」を購入するという方法です。
メガクルーザーは、陸上自衛隊の高機動車をそのまま一般向けの使用ができるよう、ヘッドライト、ウインカーなどの保安部品や内装などを適切に整えた車両で、高機動車の持つ驚異の登坂能力や、悪路走破性などはそのままに、エアコン、パワーステアリング、カーオーディオなど快適装備を備えた車両となっています。
このトヨタ製のメガクルーザーは、災害時の救難や人命救助などに使用する車両として、警察や消防を始め、JAF(日本自動車連盟)といった公共団体に主に納入されましたが、まれに一般の個人ユーザーが購入したケースもあるといいます。
空自と海自ではこちらをベースにした車を使用
メガクルーザーは現在、メーカーのラインナップからは外されてしまいましたが、陸上自衛隊の高機動車用の生産ラインが使えるため、トヨタでは要望に応じて受注生産が可能との事です。
また航空自衛隊および海上自衛隊では、その使用用途の違いから、陸自仕様の高機動車ではなく、このメガクルーザーをベースにした車両を使用しているといいますから、こちらの方もある意味でホンモノといえるでしょう。
このメガクルーザーはごく稀にですが、中古車市場で流通しているといいますから、自衛隊車両に憧れるマニアの人は、ぜひチェックしてみましょう。
高機動車の価格の目安は
高機動車は現在、トヨタ自動車傘下でトラックなどを販売している日野自動車によって製造され、それをトヨタが陸上自衛隊に納入しています。その調達価格は約700万円です。
また民生用の高機動車、トヨタ・メガクルーザーについてですが、新車当時の価格は962万円となっています。こちらの中古車については、大変な希少車だけに正確な相場は不明ですが、年式に対する寝落ち幅が極めて少ないため、リセールバリューの高い車です。そのため、店頭で販売されればすぐに売れてしまうでしょう。
2018年現在、中古車検索サイトで登録されているのはたったの1台のみで、この物件は広島県の自動車販売店「フジカーズ」の在庫車両で、1998年式で走行距離が28,000㎞、価格は何と980万円と新車時よりも高い値段がつけられています。
海外からの逆輸入車の価格は?
陸上自衛隊で使用された後、スクラップとして廃棄された部品を使って再生されたという、フィリピンなど海外の業者が販売している高機動車については、日本に逆輸入された車が存在しています。
その輸入に際しての費用や、車の価格など詳細は全く不明ですが、このような中古の高機動車が日本国内のオークションに出品され、その競売開始価格は250万円からとなっていたと報告されています。しかし、最終的な落札価格などは不明です。
高機動車の模型について
憧れの陸上自衛隊が運用する高機動車を、実際にオーナーとなって所有するのが無理なら、せめてその雰囲気を味わいたい。そのようなミリタリーファンにホビーアイテムが、日本の模型メーカー、ファインモールドが販売している「1/35スケール・ミリタリーシリーズ」にラインナップされている、陸上自衛隊高機動車です。
二種類から選べる本格的スケールモデル
このシリーズには二種類、オープンの機関銃装備車とキャンバストップ(幌屋根)装着車というバリエーションがあり、オープンの機関銃装着車には操縦士と射撃手の、二体のリアルな自衛隊員人形が付属しています。
完成時のサイズは全長141mm、全幅70mm、全高70mmのやや大きめのコレクションサイズで、価格は機関銃装備車が3,800円、キャンバストップ車が3,500円となっています。ミリタリーファンならぜひ、その手でリアルな高機動車スケールモデルを組み立ててみましょう。
憧れの高機動車をぜひ一度体験してみましょう
高機動車について、その成り立ちや魅力、中古車はどうなるのか、また価格や購入方法などを紹介しました。
陸上自衛隊とトヨタ自動車が開発した高機動車は、固定武装や防弾装備などを持たない「非装甲(ソフトスキン)車」で、米軍のハンヴィーを参考にして開発され、驚異の登坂能力と悪路走破性を持ち、舗装路での走行性能にも優れています。
高機動車は自衛隊車両のため、一般の人が購入することは不可能ですが、民生用のメガクルーザーなら中古車を購入することが可能です。またスクラップとなったはずの車が、なぜか海外で販売されるという不可解な事態が起こっているといいます。
このように、実際にオーナーとなるのは極めて困難な高機動車ですが、実車を見るだけなら防衛庁が協賛しているイベントなどに出品され、そこでは試乗会なども行っています。あなたも憧れの高機動車にじかにふれ、ぜひともその雰囲気を味わってみましょう。
初回公開日:2018年04月04日
記載されている内容は2018年04月04日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。